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記憶猫
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とても静かな午後だった。
僕は傷を庇いながら、ゆっくりと歩を進めていた。
テニスコートで学生たちが緩慢にボールを打ち合っていた。
テニス?
回転が鈍くなった眠りすぎの頭に、言葉は一つ一つ聞き覚えのない響きを持って聞こえる。
煙草に火をつけて、歩いてきた道を振り返ってみた。
随分、歩いたじゃないか。少しづつ距離を伸ばしていけば良いさ。
一匹の猫が、アスファルトに停まった車のタイアの下で気持ちよさそうに涼んでいた。
近づいても逃げない、人に慣れた猫なのだろう。
ずんぐりと贅肉をつけた猫はそれでも少し緊張して僕を見ていた。
大丈夫、僕は攻撃したりしないよ。
猫は僕の目を熱心に覗き込み、そこに込められたメッセージを読み取るべきか、
足早に立ち去るべきかを考えていたようだが、どちらも諦め、僕から目を逸らせた。

彼を見たとき、一年前の猫だとすぐに分かった。
そこには何匹かの猫がいるらしかったが、その猫の特殊な目はその猫だけのものだった。
僕らは思っている以上に、互いのことを記憶しているのだ。
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by waterkey | 2006-06-12 19:54 | SNAP



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