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NORTH KAMAKURA
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古い友人と数年ぶりに会った。
なんとなく電車で何処かへ行きたいと思った。
北鎌倉駅で下車することにした。私たちは改札を出ると言葉少なく歩き始めた。
そういえば、この友人は昔から無口な人だった。
私もとりたてて、饒舌な人間ではない。
それでいて会話がなくても、気まずいということは昔からない。
空は少し雨を予感させていた。
松ヶ丘東慶寺に立ち寄ることにした。
咲いたばかりと思われる梅が美しく花を開かせていた。
私は友人に珍しく打ち明け話をすることにした。
それは私にとって、とても珍しいことであった。
私は普段、ほとんど自分の話をしない。
数年ぶりの友人があまり変わっていなかったことが私を安堵させたのかもしれない。
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話を終えて、境内の階段に腰を下ろした。
北鎌倉には春が近いことを知らせる季節の鳥が音を立てていた。
友人は暫く考え込むように口を噤んでいた。
昔と変わらない横顔は透き通った白さを湛え、その目は昔よりも深くなったように見えた。
『別に感想も意見もいらない』
暫くして、私から口を開いた。
『ただ君には話しておこうと思ってね』
友人は私を見やり、それから視界を確かめるように空を見上げた。
私は煙草に火をつけた。
久しぶりに誰かに心を開いている自分がそこにいた。
そして、それは悪くない気分だった。
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友人は、私が被っている臙脂色の毛糸帽を手にとった。
そして私の額に掌を当てた。
小さな手の小さな指は冷やりと冷たく、それは何処かに冬の名残を残していた。
『話してくれて、ありがとう』
友人はそう言って、また私の頭に帽子を被せた。
『いいえ、どういたしまして』と私は笑いながら言った。
友人の言い方がなんとなく可笑しかったからだ。
『もう少し歩こうか』と友人は言って、私より先に階段を下りていった。
見上げると曇り空は駅を下りたときよりも青みを湛えていた。

私は黙って、何か言いたそうに見える青へと手を伸ばしてみた。
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by waterkey | 2006-02-27 21:41 | SNAP



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